インプラントとは、体内に埋め込まれる器具の総称で、医療目的で広く行われ、失われた歯根に代えて顎骨に埋め込む人工歯根(デンタルインプラント)のことを一般的には指しています。インプラントの特徴は、健康な歯を削らなくてもいいということです。保険適用歯科の場合には、歯の状態に合わせて差し歯を固定するために健康な歯を削らなければならないという治療法に抵抗を覚えていた人も多かったのではないかと思います。ブリッジ治療のためには健康な両隣の歯を削らないとブリッジを固定することができませんでした。
そうすると、健康な歯の寿命を短くすることにもつながっていたのです。インプラントのメリットは、顎に人工歯根をしっかりと固定するので、噛む力が回復してしっかりと噛めて、その結果食事も美味しく食べられるということです。それまでの差し歯、入れ歯、ブリッジでは恐る恐る物を噛んでいたのに対し、インプラントは全くこのような心配はありません。また、インプラントは人工歯根の上にぴったりと人工歯冠が固定されているために、外れるという心配がありません。
このように、インプラントは保険適用外ではありますが、そのメリットは大きなものがあります。インプラントにするということは、その人の生活に安心感を与えるということにもつながっています。食べていて外れてしまったらどうしよう、話をしていて外れて相手の人に話が通じなくなってしまったらどうしようかという恐怖から解放され、気持ちを自由にすることができます。入れ歯やブリッジには安定性が欠けるためにそうはなかなか行かないでしょう。
バネの振動で他の歯にも悪影響があることを考えるとインプラント歯科治療はお勧めできます。このようなインプラントと歯科の有効的な結合は、1965年、純チタンと歯の結合状態が良好であるという発見から始まった、歴史が長く研究されているものです。実用性の歴史は実に52年間になります。この間の長い研究実践が、インプラント治療の基礎になってきると言えます。
このチタンと歯との結合性に注目した研究者にちなんで、インプラント治療はブローネマルク治療法とも言われ、全世界に100万人以上施術を受けた患者さんがいます。これだけの発展性をもって世界中で受け入れられたインプラント治療は、そのメリットがそれまでの入れ歯、ブリッジ治療法よりも相当に優れていて、患者さんが施術を受けた後に高い満足感を得ているからです。ブローネマルク教授が最初にインプラント歯科治療を行った患者さんは亡くなるまでの44年間、全く問題なくインプラントを使用していました。また、10年以上にわたって正常に機能しているインプラントの症例率は98.5パーセントにもなり、大変信頼性が高い技術です。
とは言え、インプラントは歯科手術で大掛かりなものであることは事実です。そのために歯科医師の正しい手技の使い方が肝要な技術です。まず、歯茎にメスを入れる際に必ず正しい場所にメスを入れなければなりません。この切開線の入れ方が悪いと後で瘢痕が残る、傷痕から知覚過敏になってしまうこともあります。
歯茎のピンポイントから切開を行い、骨まできちんと届くように深く切開する技術が必要です。その際に使うメスもしっかりと湾曲したもので、綺麗に歯茎を歯から剥がすことが求められます。歯茎の剥がし方には精密な技術が求められています。次にドリルで骨を削るのですが、最初に削る骨のピンポイントの位置、そして深さを正確にしておくことが大事です。
というのも、後で人工歯を被せるわけですから、この位置がずれているとかぶせものの位置がずれてしまう、その結果食事として長持ちしなくなってしまうおそれがあります。インプラント歯科治療を行う上で、ドリルは大切な技術です。誤った方向にドリルを入れると血管や神経を傷つけてしまいます。それから、骨は大変発熱に弱い組織なので、骨が発熱しないよう、細心の注意を払っておく必要性があります。
骨は40度を超えると腐食し始めてしまいます。そのためには歯科医師が事前にインプラント技術のシミュレーションをしっかりと行っておくことも必要です。また、大量の生理食塩水を使って冷却しながら手術を行う必要性があるのですが、このためには歯科医師だけでなく、歯科助手などのスタッフの教育も欠かせません。インプラントを骨に埋め込む際にも注意が必要です。
たとえきちんと正しく穴を開けたとしても、インプラントをその方向にきちんと埋め込むことができないとならず、特に奥歯にぴったりと埋め込むのには技術が必要です。そして、インプラントを骨にねじ込むスピードについても大事で、1秒間に90度、このスピードを超えると骨が発熱してしまいます。インプラントは熟練技術です。そのために一つ一つの工程を模型を使用して、練習するという工夫もされています。
アシスタントを含め、インプラント歯科治療については、ひとつの目的に向かって達成をさせるというチーム医療の心構えが大切になります。インプラントについては、切った歯茎を縫うという、縫合過程も大切です。縫い方が悪ければきちんと傷口が閉じない、感染症を起こす、縫合後に治癒が長引くといった弊害があります。このようにインプラントは高度な技術であり、保険外適用のため、高額になり過ぎはしないかという疑念も出てくるかも知れません。
しかし、もし仮にインプラントを受けずに入れ歯治療、ブリッジ治療を受け続けることによって生活の質が落ちる、美味しく食べることができず、いつも人目を気にしていなければならないのだとしたら、それは果たしてお金と比べたときの価値が正しく換算されるものなのでしょうか。ここまでインプラント治療のメリットを主に書きましたが、その大変さも交えながらインプラントについて考えてみます。実際、インプラントの費用は高額です。また、歯科治療なのでメンテナンスも必要ですが、それも自費になります。
ただ、このような治療であるため、どの歯科医院も患者さんの治療費支払いには配慮していてデンタルローンが組めます。歯科治療は生体に対する治療なので、メンテナンスが必要になります。このメンテナンスをしっかりと行わないとせっかく施術したインプラントの寿命を短くしてしまいます。メンテナンスをしっかりと行わないと、自然の歯と同様に歯周病を起こすことがあります。
したがって、施術後に全てが終わるということではなく、新しい人工歯を手に入れることができたので、それを大切にするという認識が大事になります。保険外適用治療ですが、インプラントには審美性、噛み心地という実用性の他にも大きなメリットがあります。ブリッジは他の歯を削らなければならないという点で、健康歯に対する負担があります。入れ歯もバネで他の歯に負担がかかり、臭いが気になるため、頻繁な手入れを欠かすことができず、面倒さを伴う上に、外れてしまうかも知れないという緊張感から、その人の性格にも影響が出てしまい、引っ込み思案になってしまう可能性があります。
インプラントは、審美性が高いというメリットとともに、その人が以前に保持していた自然な咀嚼力を回復させます。咀嚼力は歯だけの問題ではなく、高い咀嚼力は、早食いを防止し、少量で満腹感を得られるようになるため、肥満を防止します。肥満から来る、高脂血症などの生活習慣病も予防し、血管年齢を若くして、人を長生きさせるという効果が、あります。インプラントはただの歯科治療の一種ということではなく、全身の治療、美容に役立つのです。